If I Were A Boy




一週間前にコナンくんが外国に引っ越したと蘭から聞かされてから、蘭は日に日に落ち込んでいった。その前には新一くんから電話で『事件で忙しいからしばらく連絡しないでくれ』と言われたらしい。授業中はボーっとしていて先生から呼ばれても気付かないし、忘れ物も多い。
喋っているときは明るく努めようとしているが、笑顔が空回っているのが分かる。他の人は気付いてないけど、この私には分かる。
こんな蘭、見てられない。

「蘭、今日もご飯少ないんじゃない?」
お昼の時間、園子と蘭は机を向かい合わせて弁当を食べ始めた。いつもよりも小さい弁当箱に入った少しのご飯とおかず。部活があるからこんな量じゃ足りないだろうに。
「ちょ、ちょっと控えてるのっ。コナンくん用に買っておいた最近お菓子ばっかり食べてるから」
素直な蘭は嘘が下手糞だ。
食欲がないと言えない蘭の不器用さにもどかしさを感じる。

数ヶ月間という短い期間一緒に暮らしただけでも、本当の弟のように可愛がっていたコナンくんは蘭にとって大切な存在だったのだ。新一くんがいなかった代わりに蘭の傍にいて時に励まし元気付けていたのは、紛れもなくあのガキンチョだった。
外国に行ったとなればそう簡単には帰ってこれないだろう。悔しいけど、蘭に本当の笑顔を取り戻させるのはあの男しかいない。

「…新一くんからはまだ連絡来ないの?」
園子は遠慮がちにその名を口にした。
蘭と新一くんは結構頻繁にメールをしていたが、何度か返信が遅れたこともあったと聞いている。蘭がこんなに心配しているのは新一くんから最後の電話があってから一週間以上も連絡がないことに他ならない。
こんなに長く音信不通なのはこれまでになかった。
「全然っ。なーにやってるんだろうね、あの推理バカは!心配するこっちの身にもなってみろってのよ」
無理して元気を装う蘭が見ていて辛かった。
「新一くんったらこんなに長く蘭を待たせるなんて何様のつもりだってのよねぇ?」
明るい調子で蘭を励ます。こういう時に友達を励まさなくてどうするのよ。私が蘭を支えていかなきゃいけないのに。
「そうだ蘭、今日うちに泊まりにこない?女同士夜中まで喋り通して、明日は外に遊びに行こうよ。明日から公開の面白そうな映画があるのよ!」
「園子ん家に?何か久しぶりだね。たまには女同士で語り合おっか?」
蘭は無理やり笑顔を作っていた。今にも消えそうな弱い笑み。
あまり寝ていないのか、目の下にはクマが出来ている。もう限界なのかもしれない。
何も出来ない不甲斐無い自分が憎い。

蘭はいつでも自分で何とかしようと頑張る子で、愚痴も不満も滅多に口にしない。
彼女の人生にとって大事な事ほどそうなる傾向が強い。
全てを晒け出して欲しいけど、頑なに虚勢を張る彼女の固い殻を破ることが出来るだろうか。

新一くん、何でこんな触れたら切れてしまいそうな蘭を放っておくのよ。
早く帰ってきなさいよ。
私なら蘭にこんな顔させないのに。ずっと傍にいるのに。内に溜め込んで我慢してしまう細い身体を、何も言わずそっと抱きしめるのに。
喉に詰まった何かを吹き飛ばすように、園子はペットボトルのお茶を一気に飲み込んだ。





私が男だったら






相思相愛キャピキャピほのぼの園蘭も好きだけど、園→蘭強めも好きです。
園子は蘭ちゃんと一緒にいて「くぅ…!マジで男だったら…!」と思ったことが絶対にあるはず。
[2009.11.5]

inserted by FC2 system